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個別レポート

脱炭素化について

2021/12/21
その他

建築の脱炭素化について考える1

 建築の脱炭素化は材料の脱炭素化から工法の脱炭素化、運営時の脱炭素化、そして廃棄時の脱炭素化など、建築の各断面での検討が必要である。これらを考えるにあたり、建築の計画・設計における脱炭素計画はどのようにしたら良いか、できるだけ早い段階で考えて戦略を組み立てることが必要となる。計画段階、調査段階、設計段階、設備システム検討段階、材料選定段階などその方法はたくさんあり、またLCCO2で考えると、材料の選定、建設と運営、そして更新、廃棄段階、寿命なども考えなくてはならない。本来は企画・計画の段階で、建築を望む声に対し、本当に必要なものかを議論すること、できれば既存施設をうまく利用できないかを考えると設計や建設段階でのCO2削減技術を超えて、大きく脱炭素化することができる。社会的に冷静な判断が必要であるが、バブル期にはオリンピックや万博など、お祭り騒ぎの中で進行してしまえばだれも文句を言えないだろうという空気感がおそろしかった。反対運動を行った国立競技場などはその良い例だと思っている。また、地方では隣の町が音楽堂や美術館を作ったのをみて、自分の町にもほしいと言い出す議員などの声が上がるが本来は住民たちが議論して決めるべきだと考えている。長野県南部のT村ではコンペで作った文化会館が、5年間でコンサート等が7回しか利用されず、美術館には地元の写真愛好家の風景写真しか展示されていない状態で、階段ホールや窓のない展示場は他の用途に利用もできず、悲惨なものであった。 このコラムでは大東文化大学板橋キャンパスの実例で決まった面積に対し、エネルギーを使用する面積を半分にすると、エネルギーは半分になる。という当たり前の計画・設計について紹介する。この実例から多少なりとも脱炭素化について知り、各々が考える材料となれば幸いである。

大東文化大学板橋キャンパス 左:教室棟 右:中央情報棟

 大東文化大学板橋キャンパスは12社のコンペで獲得したもので、敷地に余裕がなかったために他の案はほとんど隙間を縫って建てる、アクロバットな超高層キャンパス案だった。私は大学の基本は中庭(クオドラングル)にあるとし、周辺に5層の4棟が中庭を囲み、中央に情報棟を配置した水平移動によるコミュニティを生み出すスパイン空間をもったキャンパスを提案、北側の教室群の場所に教室棟を計画した。これは一見不可能に見えるのだが、実は大学の再開発計画を埼玉大、日大工学部で行った経験によれば、教室の利用率は非常に低く、できるだけ利用率を高める計画を丁寧に議論して進めると、一つの棟は解体しても可能となると予想し、敷地東から約100mの教室棟を第一期に造った。この棟と中央に図書館を作れば、第一期で基本的な機能を作れ、大学の運営には全く支障なく進めることができたのである。そして、教室棟に関してエネルギー利用を最小限にするためには、目的空間のみを機械空調(アクティブエネルギー)が必要なゾーン、教室棟全体の約8000㎡のその他の半分を全く空調しない外部空気(パッシブゾーン)と想定した。南の広場空間から教室棟に向かうとEVの前に外部吹抜の空間に達し、この奥は中廊下の一部ですぐに教室に入ることができる。

教室棟5階ラウンジ周辺

 中廊下、5階の学習ラウンジ(写真2)、そして3階の南廊下(スパイン空間)も外部空気で機械仕掛けは照明以外はない。特に5階のラウンジには外部でありながら、北の壁には木製ペアガラスサッシがつけられている。北風はこの北側のサッシと廊下東西端のドアで防がれている。南にはスパイン空間にスクリーンが付けられているが、これは太陽光セルを内蔵した合わせガラスサッシで、その間にはステンレス細パイプのすだれで空気が入り込む。このスクリーンを全体で50%以上の開放率として、内部スパイン空間を外部扱いとしている。それにより約半分の空間を厳冬期にも活動空間として快適に過ごせる環境にパッシブ環境技術で実施することが大きな目標となった。これには太陽光のダイレクトゲインが最も効果的と考え、スパイン空間の南側のソーラーセルガラスの空隙率を大きくして、太陽熱を取り込み、床や壁に蓄熱することで十分な環境を作ることができ、現在まで約16年経過したが、特段のクレームもなく過ごしている。

左:スパイン空間  右:5階共用空間 シースルー太陽光発電

 

ここまで決まった面積に対して、エネルギーを使用する面積を半分にすると、エネルギーは半分となる、という大東大の実例について書いてきたが、次回に大東大で完成させた新鮮空気一方向暖冷房のシステムについても話していきたいと思う。

 

 

 

BNA中村勉総合計画事務所代表取締役、ものつくり大学名誉教授、低炭素社会推進会議代表議長。(一社)木創研理事長。UIA ARESメンバー。ADB登録環境建築コンサルタント。

1969年東京大学卒業.槇総合計画事務所、AUR等を経て1988年中村勉総合計画事務所設立.ものつくり大学、工学院大学で教授、元JIA環境行動ラボ代表、元東京建築士会会長

 

 

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