NTTファシリティーズエンジニアリング

個別レポート

ZEH・ZEBの次について

2022/10/18
省エネ

次世代に向けZEH, ZEBの先を考える 2

 前回紹介した木更津方式をさらに展開したのが「金山デッキ」になるが、この金山デッキは茅野盆地のほぼ中心にある。八ヶ岳連峰から霧が峰方面までおおらかな景観が広がる中で、多くの人を巻き込んだ環境研究拠点の家として、1人でも10人でも皆が十分に高原生活を堪能できる重層した空間構成を提案した。外壁には縦ログパネルを採用している。実は以前に宇都宮で在来木造の小学校を建設した後、経営の問題から解体を余儀なくされた。その時に多用した縦ログパネルと木製サッシを今回も利用することでコストを抑える計画にしたのである。

金山デッキ(左:外装 右:内装)

 所有者の方は、この「金山デッキ」は、21世紀の人類的な課題である「脱炭素」を住宅で具体化する試みと紹介している。省エネ、創エネ、ZEHの性能に加え、LCCO2マイナスの実現、木材多用による炭素貯蔵、余剰の太陽光電力の他の家への融通、そして太陽光発電電力の戦略的な活用としてのVPP(バーチャルパワープラント)である。そして、この図は日経アーキ2021年6月号で作成してくれた茅野金山デッキの個のOFF-GRIDからコミュニティへの広がりと集落のソーラーや農地のシェアリングなどを巻き込んで分散型クラスターをつくるVPPモデルの図である。

VPP(バーチャルパワープラント)モデル

 金山デッキは単なる省エネ住宅でなく、脱炭素社会を見据えた住宅の評価手法として、LCCO2の視点からも検討した。建築の建設に際し、材料や工事において多くのCO2が排出されるのだが、この住宅の太陽光パネルと蓄電池は必要量の5割も多いため、CO2フリーのエネルギーを大量に作ることにより、建設に要したCO2エネルギーを相殺することができる。木材は昔の大気中にあったCO2を吸収してセルロース繊維の形で炭素貯留している。家を作るときに鉄材やプラスチックを使わずに木材を使えば、CO2排出量は格段に少なくて済む。また、木材はC(炭素)で出来ていることからカーボンマイナスの建材であるといえる。さらにこの家は、縦ログパネルの耐震性能によって耐震等級3の耐震性能となった。(※耐震等級3は避難所と同じ耐震性能)。この縦ログパネルと内断熱を採用した結果、マイナス10℃以下の茅野の金山デッキはUa値0.32 w/㎡kの最高性能をもち、省エネ法の基準である0.56 w/㎡kより約4割少ない高断熱性能となった。創エネに関しては、8.38kW能力の太陽光発電パネルで年間1万kW近い発電が可能となり、蓄電池を23kWh装備している。発電ができない曇天が数日続いても平穏に生活が営まれるように計画し、必要量に比べ51%余分に生み出すことで自然の恵みだけを頼りにして暮らせる家である。

緊急時のバックアップ範囲

 こうしてエネルギー消費を抑えたところにOFF-GRIDソーラーシステム2セットを設備した。この2セットを2段階(直列並列運転)で構成し、停電時に2段階にバックアップする日本初のシステムが完成した。そして蓄電池に貯める以上に発電はされるが、その余剰分を中部電力配電網に逆潮することによって、他の家にCO2フリーの電力を供給していることになり、社会全体を脱炭素化することにも役立つ。太陽光発電の余剰分を漫然と配電網に逆潮流するだけでなく、太陽光発電の電気が乏しい時は金山デッキの蓄電池から電力を配電網に流すという、脱炭素社会推進を助ける賢明な逆潮流によって自由に使える発電所が考えられる。そして再生可能エネルギー起源の電力の供給可能量に応じて電力需要を上げ下げしてバランスさせるDC(デマンドコントロール)の方法を研究する拠点になることも考えられている。この小さな住宅、そして建築の規模に関わらずその思想の持ち方によって2030年、いや2050年を先取りできることができると私は考えている。

 

 

 

 

BNA中村勉総合計画事務所代表取締役、ものつくり大学名誉教授、低炭素社会推進会議代表議長。(一社)木創研理事長。1969年東京大学卒業.槇総合計画事務所、AUR等を経て1988中村勉総合計画事務所設立.

作品受賞歴:建築学会作品選奨、欧州先進建築家リーフ賞、アルカシア建築賞、BCS賞、JIA環境建築賞など受賞多数。ZEB環境建築として、大東文化大学、みなと保健所、七沢希望の丘初等学校、森山保健センター、東松山化石体験館、堯舜インタナショナルスクールなど、自然素材の木創研ZEHとして広窓パッシブ型ゼロエネハウス、木更津オフグリッドハウスからSmart Cityへ展開

 

 

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